「クリスマスは静かな別荘で家族だけの特別な時間を過ごすこと」
これは我が家のルールである。
クリスマス・キャロルの流れるリビングで美味しいディナーを食べて、お香を焚き、ゆったりと一家で団欒の時を過ごす。
そんな、この世で最も幸せな時を噛み締めながら仕事に取り掛かろう。
そう、父親として一年で最も重要かつ、最も幸福な仕事が課せられているのもこの日、クリスマスだ。
24日の深夜、娘たちが眠りについた頃。
ツリーの下には規制対象として民衆から回収されたお菓子と娘たちが欲しがっていたものを全て並べる。
妻には少し呆れられながらも、娘たちが今よりもっと小さかった頃を思い出しながら仕事を進める。
全ては可愛い娘たちの笑顔を見るため、娘たちの幸せのため…。
そのために父親というものは存在するのだろう。
娘たちはとても優しい。
例年、心から喜んだ顔をしてくれる。
「パパありがとう!」の台詞と、お決まりのハグ。
娘たちの笑顔はこれ以上無い幸福と歓喜を与えてくれる。
しかしこれは、社会生活の中で学んできた”良い娘”というテンプレートを使うことで、利用価値のある”親”を動かすため…。
笑顔の裏に隠されているであろう娘たちの感情に気づいているわたしの感情には蓋をし、娘たちのそんな”嘘”ですら愛おしく感じることにしている。
今年の12月25日もそんな朝が来るものだと思っていた。
朝になり、ツリーを中心に並ぶプレゼントとお菓子の山の中から置いた覚えのないホールケーキを真っ先に選ぶと、最初から中身が分かっていると言わんばかりに大事そうに抱きかかえて行ってしまった。
普通なら絶対に手に入る訳がない物…。
どうやって手に入れたのか皆目見当がつかない。
ハグも、いつもの台詞も無い12月25日の朝は初めてだ。
しかし、久しぶりに演技ではなく、心から笑っている顔を見ることができた。
娘たちがまだ小さかった頃の、屈託のない笑顔。
打算も建前も無い、本物の笑顔…。
以前、署内で「面白そうなものを見つけた」と話していたことを思い出した。
そうか…本当に欲しかったものはお菓子でもおもちゃでもない、こういうものだったんだな…。
全ては可愛い娘たちの笑顔を見るため、娘たちの幸せのため。
そのために父親というものは存在するのだろう。
"Police"
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