ネオちゃん「は? 映画? 興味ないけど」
ウシロくん(あ、ゴアゾノさんがメガネ掛けた胡散臭い上級生に絡まれてる)
????「君おもろいやん! めっちゃ顔色悪いし、まさに僕の理想や!」
ネオちゃん「いや、だから興味ないってば」
ウシロくん「あの、ゴアゾノさん」
ネオちゃん「あら、ウシロじゃない。メタル聞いてる?」
ウシロくん「いや聞いてないけど。どうかしたの?」
ネオちゃん「なんか映画出ないかって誘われてる」
????「お。彼氏くん? ええやん。一緒に出たらええよ」
ウシロくん「ええ!?」
ネオちゃん「だから出ないってば。メタル聞かない奴は話し掛けないでよ」
ウシロくん「か、彼氏……」ドキドキ
ネオちゃん「映画って言っても、映画部の自主製作でしょ? 学生のお遊びよ」
????「お遊びやない! 僕は本気で映画を撮っとる。この前はやりすぎて、うっかりヒロイン役の子が死んでしまったんや。だから新しいヒロイン役を探していたら、君を見つけた! 君こそ僕の理想のヒロインや。どうか映画に出てくれんか」
ウシロくん「……こんなに頼んでるんだし、ゴアゾノさん、少し付き合ってあげたら?」
ネオちゃん「だからメタル聞かない奴に付き合う筋合いないってば」
????「さっきから君、メタルメタル言うてるけど。ひょっとしてメタル好きなん?」
ネオちゃん「!!!!! あんたもメタル好きなの!?!?!?」
ウシロくん「すごい食いつき」
????「メタル好きというか……メタルは生き様みたいなもんや。僕の最初に撮った映画もメタルやし」
ウシロくん「最初に撮った映画がメタルって何?」
ネオちゃん「気に入った! あんたの映画に出るわ!」
ウシロくん「いいのゴアゾノさん!?」
ネオちゃん「メタラーに悪い奴はいない。全面的に協力させて貰うわ!」
????「ありがとう! 良いSENSEや! これで役者は揃ったで!」
ウシロくん「なんか話が進んでくけど。あなたは誰なんです?」
????「僕はノジ。魔人のように映画を撮ることから、人は僕のことをノジ魔監督と呼ぶで」
ノジ魔監督「映画の内容はゾンビー! ゾンビーが出てきて人がたくさん死ぬんや! そこに僕のルーツであるメタルを注ぎ込む。名付けて、そう。メタル・ゴアや」
ウシロくん「メタル・ゴア……」
ノジ魔監督「みんな、待たせたな。新ヒロインと助っ人を連れてきたで。あれ? 沈川(ちんかわ)くんはどうした。家から出てこない? ああそう。まぁええわ。改めて新ヒロインのゴアゾノちゃんと、助っ人のウシロくんや!」
ネオちゃん「ゴアゾノちゃんよ。空気中にメタルが溢れていると聞いてきたわ」
ウシロくん「う、ウシロです……すごい、これが映画の撮影現場か。学校にこんな場所があったなんて。……なんか僕、場違い感がすごいな」
ネオちゃん「大丈夫? メタル聞く?」
ウシロくん「それどういう感情で言ってるの?」
ネオちゃん「それよりノジ! わたしの役はどんななの?」
ノジ魔監督「君にはヒロインの代役をやってもらうで。前ヒロインは、終盤に噛まれてゾンビーになってしまったんや。そしてゾンビーになったヒロインは人々を殺し回った後に、彼氏に殺されてEND!」
ノジ魔監督「ゴアゾノちゃんには天性の才能を感じるんや。天より与えられた、ゾンビーのSENSEを」
ネオちゃん「まぁ、メタル聞いてるしね。任せてよ。完璧に演じ(やっ)てみせるから」
ウシロくん「すごい自信だけど、演技の経験あるの?」
ネオちゃん「ないけど。でもなんかすごい、めっちゃイケるような気がするのよね。ゾンビー」
ウシロくん「動く死体なんて特殊な役、本当にできるのか……?」
それからゴアゾノさんに台本が渡され、ノジ魔監督からの演技の指示が始まった。
僕に与えられた役割は最初にゾンビーに殺される一般人。殺される役なんて本当にできるのか不安だけど、そこは魔監督の指導でなんとなくコツが掴めた。血糊とかいろいろ。
途中、魔監督と脚本家が解釈の不一致で絶交したりしたけれど、とうとう撮影本番を迎えることができた。
ノジ魔監督「ゴアゾノちゃん、いけるか」トランシーバァァァ
ネオちゃん『いつでもいけるわ。——メタル、忘れないでね』トランシーバァァァ
ノジ魔監督「OK。それじゃあ、イクで! 一度きりの、一発勝負や! 音楽流せ! ——いったれ! ゴアゾノちゃん!」
魔監督の指示で、放送室を占拠したスタッフが音量MAXで音楽をスタート。
空気を揺らす重低音! 学校中に不法に設置された巨大スピーカーが跳ねる! 跳ねる!! 跳ねる!!!
ネオちゃん『これは……Slipknot! Spit It Outオオオオオオオオ↗↗↗↗↗!!!!!!!』
窓ガラスが振動で割れ落ち、廊下の生徒が耳から血を多量に噴き散らかし白目をむく!
血を吐いて幾人もの生徒が屋上から飛び降りる!
四つん這いで奇声を発しながら校庭を走り回る人々!
人と人が食い合っている! 友人、隣人お構いなしだ! ジーザス!
世界は狂ってしまったのか! 神様! アーメン!
ネオちゃん『世界が……メタルに染まっていく……!!!!!』ゾクゾクッ
ゴアゾノさんが走る! 全速疾走! 最近のゾンビーは走るのだ!
僕の眼前に、血まみれで、千切れかけた左腕をぷらぷらさせたゴアゾノさんが迫る!
ネオちゃん「キャオラァ!」
裂帛の気合と共に放たれたゴアゾノさんの手刀が、僕の腹部を貫通! 大流血! 致命傷!
引き抜かれた手には、ぼ、僕の大腸が! 大事な臓物が!
ウシロくん「あ゛ぁ゛〜……お゛おぉ……!」
倒れ込んだ僕はのたうち回り、地面に血反吐をぶちまけながら絶命する!
ネオちゃん「生きてる人間はどこだああああああ!!!!」
動いてる人間を見つけると、ゴアゾノさんが駆け寄りとどめ!
芋虫のように這い回る人間の頭を、足で踏み潰す! 頭がスイカみたいに割れて、グラウンドに赤い花が咲いた!
胸部から肋骨が飛び出し、牙のように尖った骨が生徒を抱き殺す!
裂けた腹から小腸が零れ落ち、蛇のように這い回って人間を雑巾のように絞り殺す!
千切れた左腕を投げつけると、大爆発! 4人くらいが吹っ飛んだ! バラバラだ!
血色の悪い真っ黒に変色した唇がガパァっと開かれ、逃げ遅れた生徒の耳を食い千切った! 悲鳴! 歓喜! 血の雨だ! ガッデム!
ノジ魔監督「これや……僕は、これを求めていたんや! 確実にMemeになるで! うおおお! ゴアゾノちゃん! 良いSENSEやああああ!」
ネオちゃん「オラァ!」
ゴリッと音がしたと思ったら、ゴアゾノさんの右手には、むしり取ったノジ魔監督の頭が!
ノジ魔監督「映画で死ぬなら、本望や!」ナマクビィィィィィ
胴体から切り離されて尚、魔監督は恍惚の表情を浮かべて絶命した!
脚本家「ああ、魔監督が! 魔監督が死んだ!」
ノジ魔監督「お前とは絶交や!」ナマクビィィィィィ
ネオちゃん「死ね!」ブゥンッ
ゴアゾノちゃんが魔監督の頭部を投げつけると、やはり大爆発! 天丼!
脚本家はバラバラになって吹っ飛んだ! 僕、昔CD作ってたんですよ!
ネオちゃん「もっと人間いねえのかあああああ!」
ゴアゾノちゃんの絶叫が街中に広がっていく。
絶叫を追いかけるように音楽が——メタルが世界を覆い尽くしていく!
ネオちゃん「世界中にメタルが溢れている……!」
そして絶命した人間たちは、やがて沈黙を破って起き上がり始めた。
新たな人類——MGS(メタル・ゴア・シルエット)として!
メタルコジ魔監督「お前ほんま仕方ない奴やな! 向いてないで、映画に!」
メタル脚本家「すみません、へへ」
メタルウシロくん「これが……メタルの力……」
メタルネオちゃん「そうよ。メタルには人と人を繋ぐ力がある。ふふふ、すごいでしょ。メタル、聞きたくなった?」
メタルウシロくん「…………」
メタルウシロくん「いや、別に……」
メタルネオちゃん「聞けよッ!!!!」
コジ魔監督「カット! いただきました!」
終劇
文:獏宮本
絵:あらみ